2014_04
08
(Tue)21:12

真逆なセカイ~月の下での報告。~

Category: 小説
※この話を読む前に「真逆なセカイ~前置き・登場人物紹介~」を読む事をお勧めします。



肌寒い空気が漂い、まだ春に程遠い時期だが、私は星野さんと共に寮から離れた場所にいた。
「寒い中ごめんなさいね」
私は星野さんと入れ替わった自分を見つめた。
星野さんは厚着をして、不安げな目線を向ける。
「仕方ないですよ、状況が状況ですから」
星野さんは言った。

私こと輝宮まりあ(かがみやまりあ)が星野明美(ほしのあけみ)さんと心が入れ替わる原因になったのは昨日の放課後に遡る。
知恵千知(ちえちはる) 先生が発明品を作り、たまたま私しかいないということもあり、付き合うはめになった。
 発明が上手く起動するのかを見るために、私の身体中には機械の線を付けられ、知恵先生が電源を押した後に私の体には何とも言えない感覚が押し寄せ、意識を失い、気がついた時には既に何故だか星野さんの体と入れ替わっていたのだ。
知恵先生いわく、失敗だったと私と星野さんに詫び、更に運が悪いことに発明品が故障してしまい、修理に二日は掛かると言われてしまったのだ。

そのため、私は星野さんとして
星野さんは私として生活するはめになったのだ。

知恵先生から周りからばれないようにと釘を刺された。
もしばれたら騒ぎになるからだという。

明日には発明品が直るはずなのでそれまでの辛抱だ。

私が星野さんを人気のない場所に呼んだのは、他でもない、私たちの会話を聞かれないためだ。
月明かりが星野さんとなった私の体を映し出す。
「今日は大丈夫だった?」
私は訊ねる。
気になったのは私の代わりを星野さんが果たせたかだ。
……今日は確か初等部三年と高等部二年の授業があったはず。
星野さんは手をもじもじしながら答えた。
「初等部は上手くできたつもりですが……高等部二年の授業は知恵先生に任せました」
彼女の判断に、私はほっとした。星野さんは高等部一年なので二年の授業を教えるのは無理がある。
よって知恵先生に任せたのは正解だ。
知恵先生は情報だけでなく数学も教えている。
私たちの状況を理解している上に、数学を担当しているので心強い。
「それで良いわ、明日もできるなら他の先生に代わってもらった方が得策ね」
私は言った。
明日は確か高等部三年の授業が六時間目にある。それまでに元に戻れればいいが、念のためだ。
「ただ……授業とは関係ないんですがちょっと引っ掛かることがあったんです」
星野さんは意味深な言い方をした。
「阿部さんのことです」
阿部……高等部二年の阿部茄奈(あべかな)さんのことだ。
彼女がどうかしたのだろうか?
「阿部さん、すれ違う度に私に難しい表情を見せるんです。
最初は気のせいかと思ったんですけど、三回くらい同じことがあって……」
星野さんの声色は暗い。
最近の阿部さんは様子が可笑しいのは気づいていたが、生徒である星野さんまで勘づくなんて相当なものだ。
「星野さんは悪くないわ、先生の問題だわ」
私は励ますように言った。
星野さんは口を閉ざし、落ち着きなく視線を動かした。
「あの……これは聞いた話なんですけど」
星野さんは頬を赤らめた。
「阿部さん、好きな人がいるらしいんです」
「好きな人?」
「最近、阿部さん綺麗になったって噂になっていたんです。恋してるんじゃないかって」
阿部さんの恋愛。
彼女くらいの年頃の女子ならあっても可笑しくない話だ。
私に難しい顔を向けるのと関係あるのかもしれない。
「相手は誰か知ってるかしら?」
私は突っ込んだ質問を投げ掛ける。
「仕入れた情報だと王先生じゃないかって」
王先生……私は彼の名前に心当たりがある。
王正義(おうまさよし)先生は不真面目な人というのが私が抱いている印象だ。
何となくだが、阿部さんが私に難しい顔を向ける理由が分かってきた。
私が王先生とよく絡むことが阿部さんにとっては面白くないのだ。
あくまで、これは想像の段階だが……
「教えてくれて有り難う、阿部さんの件は先生が責任持つわ」
私は力強く言った。
星野さんは「お願いします」と頭を下げる。
本来なら体が逆なのに、何だか複雑な気分だ。

私は星野さんに幾つか注意点を話し、私たちは別々の寮へと戻った。